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東京地方裁判所 昭和52年(特わ)2469号 判決

本店所在地

東京都江戸川区篠崎町二丁目一九六番地

東邦化学工業株式会社

(右代表者代表取締役 源田哲士)

本籍

千葉県市川市菅野三丁目一七九三番地

住居

同市菅野三丁目七番一二号

会社役員

源田哲士

昭和三年一月一九日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官河内悠紀出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人東邦化学工業株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人源田哲士を懲役一年二月にそれぞれ処する。

被告人源田哲士に対し、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人東邦化学工業株式会社(以下「被告会社」という。)は、肩書地に本店を置き、金属製品の樹脂加工及び販売等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人源田哲士(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空材料費、架空外注加工費を計上して簿外預金を蓄積する等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和四九年二月一日から同五〇年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二三八九万一六〇八円あつた(別紙(一)の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年三月三一日、東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号所在の所轄江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七七五万九一〇〇円でこれに対する法人税額が二二二万六三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五二年押第二四七九号の符号一)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もつて不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額四八六七万九一〇〇円(税額の算定は別紙(三)の一計算書参照)と右申告税額との差額四六四五万二八〇〇円を免れ、

第二  昭和五〇年二月一日から同五一年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一二一六万八六二九円あつた(別紙(二)の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年三月二九日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八四三万一二三八円でこれに対する法人税額が二五一万六三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の符号二)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もつて不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額四四〇一万一一〇〇円(税額の算定は別紙(三)の二計算書参照)と右申告税額との差額四一四九万四八〇〇円を免れ、

たものである。

(証拠の標目)

第一  判示冒頭事実を含む判示事実全般につき、

一  被告人の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書二通(乙3、4)

一  山垣義男の検察官に対する供述調書二通(甲一27、28)

一  登記官作成の登記簿謄本(甲一1)

第二  別紙(一)、(二)の各修正損益計算書掲記の各勘定科目別「当期増減金額」欄記載の数額のうち、

(イ)  製品総売上高(各〈1〉)につき、

一 大蔵事務官作成の売上高調査書(甲一2)

一 同売上繰延調査書(甲一3)

(ロ)  製品製造原価(各〈3〉)につき、

一 大蔵事務官作成の架空材料費調査書二通(甲一17、18)

一 同材料費損金認容額調査書二通(甲一19、20)

一 同在庫関係調査書(甲一21)

一 被告人作成の「50年1月期簿外経費の支出明細について」と題する申述書(乙1)

一 大蔵事務官作成の燃料費(元帳関係)調査書(甲一22)

一 同架空外注加工費調査書二通(甲一23、24)

一 同外注加工費損金認容額調査書二通(甲一25、26)

(ハ)  期末製品たな卸高(別紙(二)〈4〉)につき

一 前掲甲一21

(ニ)  運搬費(別紙(二)〈8〉)、通信費(同〈18〉)、事務用消耗品費(同〈20〉)につき、

一 大蔵事務官作成の経費関係調査書(甲一4)

(ホ)  賞与金(別紙(一)〈10〉)につき、

一 前掲乙1

(ヘ)  福利厚生費(別紙(一)〈12〉、同(二)〈13〉)につき、

一 前掲甲一4

一 大蔵事務官作成の福利厚生費(元帳関係)調査書(甲一9)

一 山垣義男作成の「簿外経費について」と題する申述書(甲一10)

一 被告人作成の「昭和51年1月期簿外経費の支出明細について」と題する申述書(乙2)

(ト)  旅費交通費(別紙(一)〈16〉、同(二)〈17〉)につき、

一 前掲甲一4

一 大蔵事務官作成の旅費交通費調査書(甲一11)

(チ)  接待交際費(別紙(一)〈20〉、同(二)〈21〉)につき、

一 前掲甲一4

一 大蔵事務官作成の接待交際費調査書(甲一12)

(リ)  雑費(別紙(二)〈26〉)、自動車維持費(同〈19〉)につき、

一 前掲甲一4

一 前掲甲一10

(ヌ)  受取利息(別紙(一)〈26〉、同(二)〈27〉)につき、

一 大蔵事務官作成の受取利息調査書(甲一13)

(ル)  価格変動準備金繰入(別紙(一)〈33〉、同(二)〈36〉)、同戻入(同〈30〉)につき、

一 江戸川税務署長作成の証明書(甲一14)

(ヲ)  事業税認定損(別紙(一)〈42〉、同(二)〈44〉)につき、

一 大蔵事務官作成の事業税認定損調査書(甲一15)

(ワ)  交際費損金不算入額(別紙(一)〈43〉、同(二)〈45〉)につき、

一 大蔵事務官作成の交際費損金不算入額調査書(甲一16)

(カ)  役員賞与損金不算入額(別紙(一)〈44〉)につき、

一 前掲甲一1

一 前掲乙1

第三  別紙(一)、(二)の各修正損益計算書掲記の各勘定科目別「公表金額」欄記載の数額及び過少申告の事実につき、

一  押収にかかる被告会社の法人税確定申告書二綴(昭和五二年押第二四七九号の符号一、二)

(いわゆる認定利息、認定報酬等について)

検察官は、被告会社は昭和四九年一月期末に被告人に対し六六六万九九三五円、同五〇年一月期末に被告人に対し一七八〇万八九七七円、被告会社の取締役総務部長山垣義男に対し一二九万九八二〇円の各貸付金債権を有していたものであり、それぞれその翌期中に貸付金額の一〇%に相当する額の受取利息収入及び右と同額の役員報酬または給料の支出があつたものと主張し、大蔵事務官作成の認定役員報酬調査書、社長貸付金調査書、認定給料調査書、山垣貸付金調査書、受取利息調査書(甲一5ないし8、13)、被告人作成の「代表取締役源田哲士に対する貸付金について」、「山垣義男に対する貸付金について」と題する各申述書(乙2、8)には、右主張に副うかの如き記載が存在する。

しかし、前掲各証拠に被告人の当公判廷における供述、山垣義男の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲一29)を綜合すれば、右貸付金なるものは、被告人及び山垣義男が昭和四九年一月期中または同五〇年一月期中に被告会社の資金を個人的用途に費消した分の期末残高であり、本件査察を受ける前の右各時点において被告会社と被告人または山垣義男との間で右各金額についての確定的認識はもとより、右金額を貸付金とし、約定利率を年一割とする旨の合意が存した訳ではなく(ことに、山垣義男費消分は、同人が代表者である被告人に内密で捻出した裏金を費消したものであつて、被告会社との間に何ら貸借関係の存しないことが明らかである。)、本件査察によつて各個人費消分が確定した後の昭和五二年六月になつて各費消額に相当する準消費貸借契約を締結し、取締役会の承認を得たに過ぎないことが認められる。そして、被告会社と被告人間の準消費貸借契約公正正書第一条には「債務者源田哲士は債権者東邦化学工業株式会社に対し金壱千九百参拾壱萬九百八拾円也の不当利得返還債務を負担していることを承認し」、被告会社と山垣義男との間の準消費貸借契約契約書第一条には「乙が甲の資産を乙のために費消した損害賠償債務は」との文言がそれぞれ明記されている一事に照らしても、準消費貸借の目的とされた旧債務が消費貸借契約上のそれでないことは瞭然といわなければならない。

そうだとすれば、昭和五〇年一月期中及び同五一年一月期中に被告会社に所論受取利息収入を生ずるいわれはなく、いわんや同期間内に被告人及び山垣義男に対しこれと同額の役員報酬ないし給料の支払があつたものと認めることはできない。

若干付言すれば、検察官の主張は、期中において被告人らが会社資金を個人的用途に費消する都度その時点で貸付があつたとするのが、各期末ごとに期末残高について準消費貸借関係を生じたとするのか、本件査察後に締結された準消費貸借契約の効力を各期末に遡及させる趣旨か判然しない点もあるが、期中に貸付があつたとするのであれば、期末現在の貸付金につき翌期以降の利息及び報酬等を計上するのではなく、当期中の利息及び報酬等も日割または月割で算定しなければ一貫せず、益金である利息については便宜起訴対象外とする処理が許されるとしても、損金である報酬等についてはこれを洩れなく計上しない限り当期の所得を厳格に証明したことにはならない筋合であり、また、各期末時点では当事者双方が個人費消額の正確な認識を有しなかつたこと前叙の如くであるから、その時点での準消費貸借契約の成立を認めるに由ないところであり、さらに、本件査察後において準消費貸借契約が締結されたとしても、そのことによつて前期の所得に変動を生ずるいわれはない。

いうまでもないところであるが、当裁判所は、刑事裁判における事実認定上の問題としてことを論じているのであつて、税務行政面における会計処理の当否を云々するものではなく、また、本件査察後に締結された準消費貸借契約の効力を否定するものでもない。検察官は被告会社の資金保全の必要を強調するが、その目的は右準消費貸借契約の締結によつて達せられるのであり、敢えてその前期にまで遡つて架空の利息及び報酬等を認定しなければならない要は毫も存しない。

以上の次第であるから、所論受取利息及び役員報酬等については、その証明が十分でないものと認める。

(法令の適用)

法律に照すと、判示各所為は、各事業年度ごとに法人税法第一五九条第一項(被告会社については、さらに同法第一六四条第一項)に該当するところ、被告会社については情状に鑑み同法第一五九条第二項を適用し、被告人については所定刑中懲役刑を選択することとし、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法第四八条第二項により合算した金額の範囲内において罰金二〇〇〇万円に、被告人については同法第四七条本文、第一〇条により犯情重いと認める判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において懲役一年二月にそれぞれ処し、被告人に対し同法第二五条第一項を適用してこの裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 半谷恭一)

別紙(一) 修正損益計算書

東邦化学工業株式会社

自 昭和49年2月1日

至 昭和50年1月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

東邦化学工業株式会社

自 昭和50年2月1日

至 昭和51年1月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三)の一

税額計算書

東邦化学工業株式会社

〈省略〉

別紙(三)の二

税額計算書

東邦化学工業株式会社

〈省略〉

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